ものづくりは自分の価値であり、生きていく目的でもある《後編》 | アッシュ・ソープ(Ash Thorp)

No.003 

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前回に続き、第3回目はアッシュ・ソープ(Ash Thorp)さん《後編》。前編では主に仕事についてお話を伺ったが、後編ではプライベートにも焦点を当て、プライベートタイムにはどんなことをしているのか?また、仕事とプライベートの相互関係について話を聞いてみた。


チャレンジが人生を面白くしている。

ー スキルの話が出ましたが(前編参照)、新しいスキルを習得されるために常に勉強をされているということですか?

そうですね。すごくイライラしますけどね(笑)楽しいんですよ、勉強して習得することが。楽しいし、やりがいがあります。新しいことを学ぶ時は“新しい”スキルなので、当たり前なことですが、最初は全く上手くできなくて。上手にできるようになるまでの道のりは長く、惨めな気持ちになったり、プライドを傷付けられたりすることもあります。でも、もし簡単だったら人生はこんなに楽しくないんだろうなとも思います。チャレンジが人生を面白くしているんでしょうね。

ー 1日のうち、仕事をされている時間がかなり長いと思うのですが、いつ勉強されているんですか?

勉強は常に仕事とのミックスです。すごく忙しく、仕事に集中している時は、寝るときくらいしか勉強する時間はありません。その場合はチュートリアル動画をつけたまま寝るようにしていて、横になって20〜30分程度見ていれば、脳に記憶されます。また、できるだけコンスタントに見るように心がけています。時間がある時は、1時間だけと決めて集中し、新しいことを学ぶようにしています。仕事や生活に活かせないことをただ学習するということに対しては、あまり意味を見出せないので、進行中のプロジェクトに必要なスキルを学ぶようにしています。何か意図があって学ぶ方が習得するスピードも早いですしね。日本語も勉強をしたことがあるのですが、日本にいく予定がなかったり、義理の母と会う予定がなかったら、日本語も勉強していなかったかもしれません(笑)ちなみに、日本は好きですよ!

ー 日本人として日本を好きだと言ってもらえるのは嬉しいです!

From 《FITC Tokyo 2015》

From 《FITC Tokyo 2015》

 

頼ってきてくれる人のために、できるだけ力になりたい。

ー お話を聞いていると、あまり睡眠をとられていないような気がするんですが、一日平均してどのくらい寝られていますか?

時と場合によります。4〜5時間の時もあれば、7〜8時間寝られることもあります。不幸なことに、私は寝るのが好きなんですよ(笑)なので、睡眠があまり取れないことは問題ですね。

ー 一般的に、皆さん寝るのは好きだと思いますよ!実際、私も大好きですし(笑)

寝るのは最高ですよね。ただ、限られた時間の中で多くのものを生み出すには、睡眠は一番先に犠牲にしないといけないものだと僕は思っています。でもその一方で、脳を働かせて考えるために睡眠は必須要素です。十分な睡眠が取れないと、通常なら5分でできることが30分かかってしまうこともありますし。そうならないようにするには、自分のリズムとフローのバランスを把握しておく必要がありますよね。バッドワークはいろんな組み合わせで起こりますが、休みを取ることは大事です。フリーランスとして働いているため、仕事がランダムに来て、先を予測することが簡単にできないため、僕の生活の50〜60%の場合はバランスが取れていません。何をしても、結局オーバーワークしてしまって、上手くマネージメントできないんです。

ー ものすごく忙しい時に、喉から手が出るほど面白い仕事が舞い込んできたらどうするんですか?

それなんですよね。妻も知っているのですが、僕はなかなか「ノー」が言えなくて。その対策として、受信したメールは全て妻に見てもらうようにしているんです。彼女が目を通さないと、全員に「受けます」と答えてしまうので。僕を頼ってきてくれた人はできる限り助けてあげたいんですよ。ただ、そうなると一切眠れない生活になり、オフィスから出ず、ずっと引きこもってしまうので、プライベートと仕事のバランスが取れなくなり、色々なものがおろそかになっていってしまうんです。家族にとっては全く良いことではないですよね。

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情熱を感じないことは、できない。

ー アッシュさん自身、ずっと働き続けることに対して抵抗はないんですか?

ないです(笑)1日14〜16時間ぐらい働きたいと思っているので、働き続けられるのはむしろ気分が良いことですね。

ー 長時間働き続けると、集中が切れやすくなりませんか?どうやって集中力を保っているんですか?

第一に、自分の興味があること、もしくは、パッションが湧くものだけを選択して仕事をするようにしています。僕にとってこれはとても重要で、もし情熱を感じないようなプロジェクトであれば、ただ難しく辛いだけで、やる意味が見出せません。集中力の持続も関係しています。これは何かを学ぶ時も同じことが言えます。パッションがあれば困難にも立ち向かえますし、いつしかそんなに難しいことではないと感じられるようになります。

あとは、音楽やオーディオブックを聴いたりすることもいいですね。それ以外だと「ひとまず」という言葉を声に出すことです。例えば、「ひとまず、今はこの仕事をやろう」と言って、タイマーをオンにします。そしたらもう、自分の世界に没頭して仕事に集中するのみになるわけです。仕事に集中する時間が必要なことは妻も娘もよく理解してくれていて、やりやすい環境を作ってくれます。誰にも邪魔をされない時間が3〜4時間あれば、自分の考えの奥深くまで潜り、必要な素材をとって作業することができます。

ー 私は真似できないかもしれません(笑)リラックスする時間はあるんですか? やっぱり、家族と過ごすことが1番のリラックスタイムになるんですかね?

家族と一緒にいることがリラックスにつながるかというと、100%そうだとは言えないかもしれません。家族といる時は『父親』と『夫』という役を演じているところもあるので。そもそも、僕自身リラックスを必要としていないのかもしれません。横になってゴロゴロしたいとかは思わないんです、楽しくないし。

ー そうなんですね!

単純に忙しいことが好きなのかもしれません。常に動き回って忙しくしている方が好きですし、とにかく何かしていたいんです。何かを作りながら自分が成長していくことに対して、人生って楽しいなと感じるんです。休暇の際に旅行に行ったこともありますが、最初の1日2日は楽しめても、家に帰って仕事がしたいと途中で思ってしまって。とにかく仕事が好きなんです。何もしないで、ただ休むということは好きではありません。仕事をしないと、もしかしたら体調を崩してしまうかもしれません。 

《Ares - Our Greatest Adventure》

《Ares - Our Greatest Adventure》

《Ghost In the Shell》

《Ghost In the Shell》

 

ものづくりにゴールはなく、永遠に終わりはない。

ー では、良い働き方と良いものを作るためのバランスはどう取られていますか?

正直に話すと、僕の場合、ちょうど良いバランスは未だ探せていません。もし知っていたら逆に僕に教えて欲しいです。ぜひ試してみたいです。ただ、何事においてもそうですが、僕が1番大切だと思うことは、全てのコミュニケーションに関わることで、他の人とだけではなく、自分自身をよく理解しそれらと向き合うことが大切だと思います。コミュニケーションをとることを怠らなければ、すごく難しいことに向き合うことになっても人々はわかってくれるだろうし、そういう時も自然とバランスが取れると思っています。でも、仕事とプライベートのバランスは、自分の情熱、本当にやりたいことをやれているかどうかによると思います。本当にやりたいことができていれば、気持ちもポジティブでいられるし、強い気持ちを持つことができます。そうすると自動的に人生に対して満足できると思うんですよね。また、自分は何をやっていて、何のためにやっているのかを他の人に知ってもらえると、助けになる時があると思います。もしパッションを保つことができ、コミュニケーションを取り続けたら、良いネットワークを築き上げることができるはずです。それがバランスを保つために大切なことかもしれないと僕は考えています。

ー 最終的なゴールは設定されていたりするんでしょうか?

ゴールはないですね。もちろん常に今より良くなりたいと思っていますが、最終的なゴールみたいなものは設けていません。この映画の仕事が終わったら『終わり!』みたいな感覚もありませんね。多分、死ぬまでそう思うことはないです。自分の出来ることを増やして、スキルをもっと上げていきたいと今後も思うはずです。自分の納得のできるところまでいけたら、満足できるんだと思いますが、それは次なる課題へ進むためのステップでしかありません。1つのスキルをマスターできたと思ったら、次はスクリーンライティングや、どうやって役者をディレクションするか学ぶべきだと考えて、どんどん動いていくはずです。それぞれの技術をマスターするのに多くの時間は要しますが、永遠に終わりはないですね。

ー それでは最後に、ご自身を一言で説明するとしたら、何て言葉が当てはまるでしょうか?

『情熱的』かな。アイデンティティという言葉を聞いて頭に思い浮かぶことは『本物である』ということですかね。

 From game 《Call of Duty - Black Ops Ⅲ》

 From game 《Call of Duty - Black Ops Ⅲ》

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アッシュ・ソープ(Ash Thorp)
 

デザイナー、ディレクター、イラストレーターなどマルチで活躍。最近では『GHOST IN THE SHELL』、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』、『ブレードランナー2049』などの作品に携わる。Filmだけでなく、ゲームやテレビのコンセプトデザインやアートディレクションも手がける。

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Mana Ohtake